指揮者と演奏者のごとく

オーケストラの演奏者は、指揮者の指揮によって自分の演奏を奏でるだけでなく、自らの体から発する拍動に乗って演奏をコントロールしていくことも要求されます。

これは、どちらが優先されて、都度変えていくのではなく、バランスの差こそあれ常に同時に起こっています。

もちろん、指揮者によっては、徹頭徹尾、私の指示に従ってくれ、という人もいるのかも知れませんが、たとえそうであったとしても、その前に、必ず、演奏者自身の脳力として、自分で発している拍動にリズムを乗せることが出来ていなければ、その指示に従うことすらままならないのです。

これは、コーチとクライアントの関係に似ています。

コーチングはコーチから受けるもので、自分でおこなうコーチングはセルフコーチングといって、コーチから受けるコーチングとはまた別なもの、という考え方があると思います。

この区別の仕方は少し極端かもしませんが、このように考えやすいのも事実です。

そして、この分け方は完全な間違いでもありません。

しかし少し考えてみるとわかると思いますが、クライアントがコーチからコーチングを受けている最中であっても、そのクライアントが何も考えていないかと言えば、そうではありませんよね。

コーチングを受けている時のクライアントは、いずれにせよその内容を全力で考えざるを得ないからです。

コーチから何かを教わる、ということと少し違いますが、それでも、クライアントが主体で何かを感じながらコーチングされていくという状態が普通です。

このことは、クライアント自身の能動的な活動が行われているということでもあり、実は、これが、後にそのままセルフコーチングを促すことにもなるのです。

また、この観点から言えば、セルフコーチングとは、コーチングされている状況を、クライアントが後で意識的に見つめ返し、改めて自分自身に適用させていくこと、だとも言えるのです。

これは指揮者と演奏者の関係性にとても似ています。

★クライアントは自立が前提

ここを少し詳しく書きます。

冒頭でも書いたように、オーケストラでの演奏者は、指揮者の意図に沿った状態で演奏していますが、その演奏自体は自分で完全にコントロールしています。

このことが、コーチから離れたクライアントにも同様に言えるのです。

コーチからコーチングを受けている最中は、コーチの発言内容を汲み取ることに集中しながらも、同時に自分もそのことについて考え、自分なりの解釈になることもあれば、新たなアイデアを見つけられることもあり、この範囲については、クライアント自身のマインドの使い方にかかってくることになります。

そして、このクライアント自身のマインドの使い方、という部分から先が、コーチとは独立しておこなわれる自分自身に対するコーチングになります。

これが、本来のセルフコーチングと呼ばれるものになるのです。

クライアントにとってコーチは頼れる存在ではありますが、それは決してコーチに依存することを前提としているわけではありません。

コーチは、このことをあらかじめわきまえておき、クライアントとセッションをしている期間中、ある程度の流動性をもたせた上で、一定の距離感を保っておきます。

セッション期間中、クライアントが本当に迷路に入り込んでしまっているようであれば、少し間合いをつめてみたり、おおむねクライアントの歩みが安定しているのが分かれば、それに対応した距離をとって、その状況を観ながらコーチングを続けていきます。

そもそもコーチは、相手にしているクライアントと同じ観点には立ちません。
コーチは、クライアントをあるところから引き上げる存在ですので、同じスコトーマを共有してしまうような場所にいることはないのです。

ですから、コーチはいつでもクライアントを俯瞰している必要があります。
それが、一定の距離感を保つ理由です。

これは、結果的にクライアントにとってコーチング期間終了後の自立を促すことにも繋がります。

一口にコーチングと言っても、そのかたちは様々です。

それは分野にもよるでしょうし、コーチを雇う側や、この場合であってもコーチの意向によってそのコーチングの形体が違うことはいくらでもあります。

しかし、いずれの場合でも、その理想の姿のひとつは、コーチングを受けた人が一人でも自身をコーチングできるようになることです。

言い換えれば、クライアント自身が自力でゴールを見つけ、自らでエフィカシーを上げ、その行程を自らで歩んでいきゴールを実現できるようになることです。

これは、あらゆる意味で最も安全な方法になります。

あってはならないことですが、コーチや指導的な立場にいる者が、何らかの意図を持ってクライアントに接触してくることも皆無ではないかもしれませんし、コーチングされていることが逆に今のコンフォートゾーンを強化してしまっている、などということも無いとは言い切れないからです。

もちろん、こういった状況を招くようなコーチは論外ですが、自分だけでコーチングをおこないそれを効かせることが出来るのであれば、そのメリットはとても大きいのです。

このように、コーチは、クライアントにコーチングをしていくことによってゴールを達成させていくのですが、これは、そのコーチングの中に始めからクライアントがセルフコーチングができるような状態が含まれていることを念頭に置いています。

そして、クライアント側は、いずれは自分自身で何らかの動機ずけをおこない、自分自身の手でゴールを作り、それに対して自分をコントロールしながらゴール達成のための道筋を創っていく訓練をしておく。

これらが連動した結果、クライアント自身でも驚くような、それまで夢だったようなかたちが実現されていくのです。

★クライアントとしてのコーチ

ここまでお伝えしてきたことは、コーチはコーチ、クライアントはクライアントという、どこまで行っても立場が交わることのないような話に聞こえたかもしれません。

しかし、実際は違います。

人を導くしっかりとしたコーチングが行えるコーチは、それまでの間に必ず良いコーチングを受けてきています。

これは、コーチ自身もクライアントであったということです。

そしてこれは、コーチ自らが自分の能力をもっと磨きたいと思っているのであれば、そのコーチは、現在も何らかのコーチングを受けている可能性もある、と見ることができます。

何らかのセミナーや基礎講座を受講し続けることに年月を費やす人がいますが、そういった人には中々わからない感覚かもしれません。

もし、こういった人の中で、自分もコーチになってクライアントをとってやってみたい、と思っている人がいるのであれば、なおさら理解し難いことかもしれませんね。

なぜなら、コーチはある勉強を修めた人が、しっかりとした準備をもとに、一旦コーチ業を始めてしまえば、あとはそのままコーチング‘のみ‘をずっと続けている状態の人だと思うだろうからです。

この表現は大げさだとしても、やはり、コーチが他のところでは実はクライアントであることもある、とは想像できないかもしれません。

これは、無理もないことですが、実際には、優れたコーチであればあるほど、その脳力を磨き続けるために、コーチングを継続的に受けている可能性があるのです。

クライアントの夢や悩みを持った視点。

そしてコーチとしての視点。

この二つの世界観は、コーチとクライアントという関係性を持った時点で、はっきりと厳密に区別されることとなりますが、コーチはクライアントの立場を知ることにより、より優れた脳力を携えることができ、クライアントはコーチの施すコーチングの質によって、その後のクライアント自身の手によるセルフコーチングを成功させる可能性を高める、という意味で、どちらも重なり合う部分があるのです。

もしあなたに、プロフェッショナルなコーチとして活動していきたいという思いが強くあるのであれば、こういったことについてしっかりとした私見を持っておくと、あなた自身のコーチ像を他者とは違うものとして際立たせたいと思った時、意外な力として役立つことがあります。

あなたが他のコーチにない強みを発揮できる余地が、そこにこそあるのです。

どこもかしこも、同じようなコーチやカウンセラー、セラピストやインストラクターであふれ返っている!

と、嘆く前に、あなたにも必ずあなただけのコーチの姿があるはずだと信じることです。

少なくとも、そう思い続けることで、既成のコーチとしての概念を、あなたのコーチ像で破壊することが可能になるのです。

あなたの夢の実現をいつでも応援しています

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